『自販機に頭が刺さって抜けない人』

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 休日の早朝5時。散歩している私の目に飛び込んできたのは、そのまま目を逸らしたくなる光景だった。  頭が自販機に刺さってしまっている男性が、じたばた必死に頭を抜こうとしているのだ。 「気にするな」  そいつは動きを一瞬ピタリと止め、低くくて格好いい声でそう言った。国語の前田先生に似た声だ。なんで私に気付いたのかなんて知らない。知りたくもない。  とりあえず、写メだけはとっておいた。 「そうします。頑張って下さい」  私がそう言うと、男性は慌てて私を引き止めようとする。 「待ってくれ、お釣りが出なかったから頭突きしたら刺さったんだ。俺は悪くない。助けてくれ」  どんな脆い自販機だよと思いながらも、命乞いのようなその声に、私は手を貸してしまう。  言い忘れたが、私は空手3段だ。だからと言って、私は空手の訓練で自販機に頭が刺さった人を助ける方法を生憎教わってはいなかった。  だから、男性を掴んで思い切り自販機を蹴り飛ばした。  鈍い音がする。自販機がひしゃげ、飛ぶ。 「ありがとう。助かった」  男性のつるぴかスキンヘッドは、どう見ても国語の前田先生にしか見えない。    私は全て無かった事にした。  そして振り返らず、散歩を再開した。  佇む先生を置き去りにして…………            ――Fin――  
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