君、逃走中

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尚杞に呼ばれるとは思っていなかったのだろう。 数拍置いて振り向いた女の子にやっぱり見覚えはなかった。 綺麗で真っ直ぐな黒髪を肩下まで伸ばし、大きな目が活発的な印象を与える。 どことなく悠左と似た容貌だった。 幸は驚いた様子のままこちらへ駆けてきて廊下に顔を出すと、悠左の顔を見て表情を綻ばせた。 「お兄ちゃん!」 「幸。ほら、課題持ってきたよ」 「わ、ありがとう!でもお兄ちゃん早かったね。もう大学終わったの?」 「ああ。担当の先生が欠席でね」 幸と話すときの悠左は尚杞といたときより数倍優しく見えた。 優しいというか、甘い。 幸だったら目に入れても痛くない、くらい思っていそうなの甘さ。 俺といるときはそんな顔しなかったくせに、とむっとして、尚杞は無理矢理ふたりの会話に入り込む。 「成宮さん、俺のこと知ってる?」
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