第九章 夢の終わりに

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4月12日早朝、幕府による、最後の本丸攻撃が開始されようとしていた。 有明海から吹いてくる潮風が、蘆塚の鼻腔(びこう)をくすぐる。 いつもの原城の本丸であれば、それはさわやかな潮の香りであったが、その日の香りはまったく違うものだった。 蘆塚が何十年と、戦場で嗅いできた匂い。 それは、濃厚な死の香り。 血の匂い、硝煙(しょうえん)の匂い、何かが焼けたような匂い。 (わしの人生も、今日が最後か……。 初めて、いくさ場に出たあの日から、30猶予年、 自分は、畳の上ではなく、どこかのいくさ場で死ぬのだとは思っていたが、まさか、キリシタン達とともに幕府を相手に戦うとは思わなんだ……。 行長様、あの世から見ていて下され。 この蘆塚忠兵衛、行長様から頂戴致した積年のご恩に、必ず報いまする。 徳川相手に最後のひと暴れじゃ!)
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