第九章 夢の終わりに

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蘆塚は、伝助の止血を懸命におこないながら、必死に話し始めた。 『ああ、あるとも! 天国はあるぞ、伝助! 天国に行けば、必ず嫁と子供に会えるぞ! わしは、確かに四郎殿から聞いたのだ!』 (死んだ後の世界があるかどうかなど、正直わしにはわからぬ……。 しかし、天国というものが無ければ、あまりにもむごすぎる。 そうでなければ、この島原で死んだ者達が報われぬ。 彼らは、この世の幸せなど、一切知ることなく死んでいったのだぞ! 彼らが天国で報われなければ、やってられぬ! やってられぬではないか) 『よ……、良かった。 キ……キヌ、太助……。 今から……父ちゃん……』 伝助から、それに続く言葉が出てくることはもうなかった。
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