春 ~自殺志願~

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  何度思い返しても、鍵を閉めた記憶がない。 急いでいたので曖昧だが、鍵は職員室に預けずに帰った覚えはある。 ランドセルを調べられたら鍵が出て来るだろうから、犯人は野呂だと直ぐに判明してしまうだろう。 野呂はとてつもない恐怖にかられた。 クラスメートから浴びさせられる数々の非難や怒号、罵声。 教室内の空気を想像すると、居ても立ってもいられない。 だが、そんな彼の心配とは裏腹に、クラスメート達の視線は野呂ではなく、遅れて登場した立川へ向けられた。 「最っ低!」 「兎殺し!」 本来であれば、野呂に浴びせられる筈の言葉たち。 立川は状況が掴めず、ドアを開けたままの態勢で呆然と立ち尽くしているだけ。 当然だ。 何も知らないし、やってもいないのだから。 どうやら、野呂と立川が当番を交代したことは誰も知らなかったようだ。 立川の仕業だと信じて疑わないクラスメート達は、こぞって彼を容赦なく責め立てる。 極度の緊張の為に嘔吐しそうになるのを、歯を食いしばって堪える野呂。 青ざめた顔には、幾筋もの冷や汗が滴っていた。
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