776人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
とある商店街の一角に、その一風変わった喫茶店はひっそりと存在していた。
周囲の店が客の目を引くように華やかな色使いをしているのに対し、ここは人を寄せ付けない雰囲気を醸し出していた。
老朽化が進んで所々禿げた瓦屋根の乗った、今にも倒壊しそうな日本家屋。
年季を感じる焦げ茶色の壁に分厚い木戸と、古めかしいことこの上ない。
窓硝子は丹念に磨かれてはいるが、店内が極端に暗いため、覗き込んでもよく見えない。
これでは客が警戒して入らないのも頷けるというものだろう。
「――さて、と。そろそろ
お店を開けましょうか」
男は畳を拭いていた手を休めると、穏やかな様子で言った。
店としては狭い十畳程の部屋には、丸いちゃぶ台が一つ。
茶を煎れるカウンターはなく、喫茶店と名乗っている割には人様の家の居間を思わせる箪笥やテレビがならぶ。
壁には色褪せたカレンダーが掛けられてはいるが、かなりの年数が経っているようで役に立ちそうもない。
最初のコメントを投稿しよう!