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店主なる男は烏色の着物に、それとは真逆の白い光沢のある帯で身を包む。
光を纏った背中までの長い白髪が揺れ、その隙間からは二十代後半と思われる顔が覗いた。
その涼やかで整った顔立ちは、見る者全てを虜にしてしまうような魅力があった。
「ンニャァ」
返事をしたのは三毛猫。
彼女の特等席である窓辺に敷かれた座布団の上で、毛繕いの真っ最中。
男の言葉が解るのか、首に付けられた黄金色に輝く鈴を鳴らす。
……が、返事をしただけでまた毛繕いに戻ってしまった。
そのいかにもマイペースな様子に、男は溜め息をつく。
「人にはいつも指図する癖に、
自分は何もしないんですから。
猫は気楽でいいですよね……」
ぶつぶつと文句を言いながら、男は古くなって軋む引き戸を力を込めて開けた。
裸電球一つしかない薄暗い店内とは正反対の眩しさに、思わず目を細める。
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