穏やかな日々。

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穏やかな日々。

『俺達、これからもずっと親友だよな?』  無邪気な笑顔に何気もなく口にした言葉。  その言葉は男の胸に呪いとなって刻まれた。 『親友』  良い言葉でもあるが、残酷な言葉でもある。  彼は気付いていない。  親友だと思っていた男が、まさか恋愛感情を抱いているなんて。  無邪気な笑顔の前では、真実を告げることは難しい。  切なくて、苦い想いを胸に抱き、最後まで演じなくてはいけない。 『彼にとっての親友』を。  この想いは決して叶うことはないだろう。  もし、恋愛感情を持っていると知ったら、あの笑顔はどうなるのだろうか?  侮蔑?  軽蔑?  嫌悪?  それだけは失いたくない。  彼を失いたくない。  その為には感情を殺さなくてはいけない。  封印をしなくてはいけない。 「ああ。俺達は親友だよ。今も、これからも。死ぬまで、俺達は親友だ。」  自分に言い聞かせる。 『自分は親友だ』と。  決して口には出せないこの想い。  どうしたら昇華できるのだろうか?  死ぬまで抱えなくてはいけないのだろうか?  笑っている彼を見つめながら、男は見えないところで涙を流した。 『友情と恋情って、どう違うんだろう・・・。』  それが課せられた問題だった。 (一体、答えはいつ出せるんだろう。)  桜舞い散るその光景で、男は涙を流しながら思っていた。
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