出会い。そして苦悩。

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「何かあったのか?」 「えっ?」 「両親はあえて聞かずに黙っていたけど・・・何かあったのか?」 「・・・・。」  貴之は黙り込んだ。  そしてベッドヘッドのところに飾っている写真立てを見て、少しだけ驚いた。 「右京、この人・・誰?」 「それは姉貴。二年前に結婚して、アメリカに渡米したんだ。去年双子を出産して、今も妊娠している。」 「へえ。お姉さんか・・・。」  その時の貴之の表情は見ているこっちが切なくなるほど、悲しい色を帯びていた。  右京は動揺しながらも、話を元に戻した。 「家で、何かあったのか?」 「ああ。実はな・・・。」  躊躇いながらも、貴之は重い口を開いた。  貴之の母親は、元々体が弱く、彼を出産した後は更に体を壊してしまい、入院を繰り返していた。  一方、父親の方は体の弱い母親の存在を無視して、外に愛人を作っては家庭を顧みていなかった。  貴之が三歳の時、父親は愛人を妊娠させた。  そしてその子を認知し、貴之の弟にしたのだ。  父親からその話を聞かされた母親はショックを受け、それが原因で自殺。  世間から冷たい目を向けられた父親は、開き直って愛人とその子供を引き取り、そのまま籍を入れてしまったのだ。  当然、母方の祖父母が猛反発をし、貴之を引き取った。  また、自分の両親からも勘当を言い渡され、貴之の父親は孤立無援になったのだ。  母方の祖父母に引き取られた貴之は、母が亡くなったのが父親のせいだと真実を知りながらも平穏に暮らしていたが、中学二年の時に二人は他界。  身内がいないため、仕方なく父親と暮らすことになったのだ。  貴之の母親が自殺したのが自分が原因であるため、父親は改心をしたのか、償いの意味で貴之を執拗以上に溺愛した。  それが義母と異母弟に悪影響を与えたのか、父親と義母の二人は毎晩のように喧嘩をしては、近所から苦情や警察沙汰にまで問題が発展していた。  一方、異母弟は事あるごとに貴之に当たっては、部屋に引き篭もっていた。  そんな家族に嫌気が差した貴之は、母方の祖父母が残してくれた遺産で高校進学と受験料に当て、大学は奨学金と自費で行こうと決めてアルバイトに勤しんでいた。  
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