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そこへだ。
貴之は信じられない現実を目の当たりにしたのである。
それは、父親が起こした会社で負債が発生し、その負債を貴之のために祖父母が残した遺産で当てようとしたのだ。
祖父母の遺産を管理している弁護士からその連絡を受けた貴之は、事務所に赴いた。
事務所に着くなり、貴之は当然のごとく、父親に抗議をしたのだが、彼は逆キレを起こした。
そして貴之と弁護士に信じられない暴言を吐いたのだ。
『俺が自分の息子の金を使って、何が悪い!お前の母親が死んだのは、俺のせいじゃねえ!貴之のせいだ!何で俺があの女のために貴之の面倒を見なくちゃいけない!勝手に産んで、育てたのはあいつ勝手のだろ!金を持っているから引き取ったのに!金が取れねえなら、意味がないだろ!』
(俺のせい?母さんをあんなに苦しませておきながらも、まだそんなことを言う?しかも俺を引き取ったのは、祖父母の遺産目当てだって?信じられない!)
貴之は父親を殴り飛ばし、弁護士事務所から飛び出した。
そして気付いた時には、右京の家の前に立っていたというのだ。
全ての話を聞いて、右京は絶句していた。
想像以上に凄まじ過ぎる貴之の家庭の事情に、どう対応したらいいのか判らないのだ。
目の前にいる貴之は、静かに泣いている。
普段は太陽のように明るい彼が、今は全く違う。
「どちらにせよ、弁護士が俺側の人間だから祖父母の遺産はビタ一文渡さないけど・・・。でも、母さんを殺したのはあの男なのに、どうしてそれを平気で俺のせいにするんだ?そういう神経が許せねえよ!」
「貴之・・・。」
「もう、嫌だ。あの家に戻りたくない!戻りたくねえよ・・・。」
右京も思わず涙ぐんでしまう。
普通の家庭に育った右京。
でも、右京には同性にしか興味が持てないという性癖があり、それを隠して生きている。
貴之は悲惨な過去を持ちながらも、前を向いて必死に生きている。
(だから、貴之に惹かれたのか・・・。)
同性として、人間として。
泣いている貴之を見て、右京は自然に彼を抱き締めていた。
そして頭を撫でながら、声を震わせて励ました。
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