出会い。そして苦悩。

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「大丈夫だ。俺がいる。俺が側にいるから・・・。」 「右京・・・。」 「泣きたい時は泣けよ。我慢は禁物だ。」 「・・・サンキュ」  右京の温もりと、優しい言葉が身に染みたのか、貴之は声を上げながら泣き出した。  母親を亡くしてからずっと我慢していた涙を、開放する。  父親の変貌に違和感を覚えながら、結局は上辺だけの関係だった。  辛くて、耐えられなくて、悔しくて、苦しくて。  親の庇護を受けなければいけない年齢の自分に苛立ちを覚えながら、貴之はたくさん泣いた。  泣いて、泣いて、気が付いた時には泣き疲れて右京の胸の中で眠っていた。  そんな彼を見て、右京はフッと笑うと、自分のベッドに寝かせた。  眠っている貴之の頭を撫でながら、右京はハッとした。 (俺、今・・・。何を?)  右京は頭を撫で、そして頬を撫でて、自分の指で貴之の唇に触れたのだ。  無意識なのか、あるいは意識して触れたのか。  右京は驚愕した。 (俺は、俺は・・・・!)  貴之は親友だ。  そして今、彼は精神的にも肉体的にも落ち込んでいる。  傷付いた彼に、自分は一体何をしようとしたんだ?  怖くなったのか、右京はお風呂セット一式を手に持つと、急いで自分の部屋から飛び出した。  そして湯船に浸かって苦悩した。 「嘘だ。俺は・・・。違う、貴之は親友なんだ!親友・・・。」  まるで呪文のように自分に言い聞かせる。  友達に欲情した自分が許せない。  右京は湯船から出ると、シャワーを浴びた。  お湯ではなく、水でシャワーを浴びて、頭を冷やした。  冷やしても、心の中に灯った火は消えない。  この火が、この先ずっと右京を苦しめ続ける日になるとは、この時の右京は予想もしていなかった。
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