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自宅に帰れば、貴之と会う。
まともに顔を合わすことが出来ない。
右京は部活が終わっても、ずっと美術室で一人で活動していた。
油絵を描き、彫刻刀で版画を作成し、そして学校の近所にある陶芸家を訪ねては、遅くまで陶芸に没頭した。
そうしないと、胸の中に灯った火が収まらないのだ。
(どうしたらいい。この感情は友情なのか?それとも、恋情なのか?)
苛立ちと、焦りと、苦悩を抱えながら、月日は巡っていった。
あの日以来、貴之は実家には帰宅していない。
父親とも、義母とも、異母弟とも、一度も顔を合わしていない。
進学も貴之は一人で決めた。
奨学金制度のある、T大だ。
以前からそこに行きたいため、貴之は一年の時から必死でアルバイトをしてお金を貯めていたのである。
母方の祖父母が残してくれた遺産でも賄えるが、もしもの時はと貯蓄しているのだ。
一方、右京は陶芸の道を進むために、T芸術大学に進学し、その後は陶芸家に弟子入りをしようと決めていた。
二人は異なる道に進むため、それぞれの進学へと向かった。
三年生になり、貴之は進学コースへ。
右京は文系コースを志望したため、クラスが分かれた。
帰る家は一緒だが、時間帯は違う。
貴之は卒業後、右京の家を出ることになっている。
それは初めから決まっていたことで、右京の両親は止めはしなかった。
ただ、貴之は感謝をしていた。
右京に出会えた事。
右京の両親に大事にされたこと。
実の父を憎み、義母を呪っていた貴之にとって、救いだった。
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