出会い。そして苦悩。

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 時間が進むに連れて、お互いの時間もすれ違っていく。  お互いが推薦枠で合格したため、貴之はバイトに専念した。  そして右京は、ある人物と知り合ったのだ。  いつものように、学校の近所で窯を持っている陶芸家の元へ訪ねた時である。  陶芸家の名前は、勝間田秀敏【カツマタヒデトシ】といい、今年で六十歳を超えた男性だ。  彼は個展を開きながらも、週に一回は無料で陶芸教室を開催しては、指導を行っていた。  右京も部活の顧問の薦めで、彼の陶芸教室に通っている。  そこで秀敏から指導を受けていた右京は、彼から『陶芸の素質がある!』と太鼓判を押されたのだ。  陶芸に打ち込んでいれば、全てが忘れられる。  そう思い、陶芸に打ち込んでいた右京に、秀敏はある提案をしたのだ。 『わしの弟子にならないか?』  条件は美術系の大学に進学し、美術の教員資格を取得すること。  陶芸だけでは食べていけないことを、秀敏自身が肌身で体験しているからだ。  彼の提案に、右京は躊躇いもなく即決した。  両親からは『自分の好きなことをしなさい。』と、応援してくれた。  秀敏の条件を飲んだことで、右京は学校が終わると毎日のように彼の工房へと赴いては、陶芸の基礎を学んでいた。  そんなある日のことだった。  いつものように工房で土を練っていた右京に、ラフな格好をした若い男性が声を掛けてきたのである。 「あれ?君、学生?」 「はい?」  声を掛けられたので、右京は顔を上げた。  サングラスを外し、若い男性は右京を上から下へ。  下から上へと、品定めをするかのように見ていた。  絡み付くような視線に、右京は嫌悪を感じる。 (誰だ?この人・・・。)  警戒心を全開にさせ、右京は距離を置いていると、置くから秀敏が姿を現した。  そして若い男性を見て『おおっ!』と言いながら右京に紹介した。    
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