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「右京君、紹介するよ。彼は馬堀雄大【マホリユウダイ】君。わしの知人の息子で、陶芸家の卵だよ。」
「陶芸家の卵?」
思わず声が裏返ってしまった。
見た感じでは『どら息子』だと思ったからだ。
右京の驚きっぷりを見てなんとなくイラッとしたのか、雄大は眉間に皺を寄せながら口を開いた。
「なんだ?俺が陶芸家なのがおかしいのか?」
「いえ!えっと・・・。」
ストレートに思っていることを雄大に指摘され、右京は口篭ってしまった。
すると後ろで秀敏がげらげらと笑いながら、フォローをしてくれた。
「当たり前だ!陶芸家のルックスじゃないだろ!」
「おじさん、それは酷いよ!」
「うっさいわ!で?何しに来た?」
一喝して、即座に要件を尋ねる秀敏にイラッとしながらも、雄大は渋々と言った。
雄大が秀敏を訪ねたのは、新作の出来を見てほしいということだった。
陶芸家の卵とはいえ、業界の中では新人以前の問題の立場。
今度、新人を対象にした小さな作品会で、雄大は力作を出したいと思い、秀敏を訪ねて指導をしてもらおうと思ったのだ。
箱から作品を取り出し、秀敏に鑑定してもらう。
彼の作品は一輪挿しのようで、赤の色がすっごく目に焼きつく感じのものだ。
「色の出し方は上手いが、作品展に出すにはまだまだじゃな。」
「ダメか・・・。」
「土台の土の質がよろしくない。もうちょっと選別して、作り直してみろ。」
秀敏が厳しい目で作品を見て色々と指摘をする。
それを受けて、雄大も真剣な表情で受け止めていた。
二人のやり取りをみて、右京は息を飲んでいた。
(この緊迫した空気は一体・・・。)
陶芸家に全く見えない雄大も、らしく見えてくる。
普段は笑顔を絶やさない秀敏も厳しい表情だ。
この時のことを、右京は忘れる事はなかった。
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