出会い。そして苦悩。

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『大事な友達』  何て残酷な言葉なんだろう。  貴之に対する気持ちが判らないからこそ、距離を置いているのに。  目の前の男はそんな右京の気持ちも知らずに、彼に友情を求めている。  何て酷い人間なんだろう。  だが、右京に彼を責めることは出来ない。  元々、二人は親友という関係なのだから。 (貴之に嫌われたくない一身で俺は・・・。)  決して言ってはいけない禁じられた言葉。  今、喉まで出掛かっている。 (言ってはいけない!言っては!)  右京は笑みを浮かべながら偽りの言葉を告げた。 「そんな訳ないだろ?お前だって、バイトで大変だから、声を掛けられなかったんだよ。」 「右京・・・。」 「あんまり無理するなよ?大学行く前に、入院なんてしゃれにならないからな。」 「ああ。」 「ほら。家に入るぞ。しっかり立てよ。」 「悪い、悪い。」 (お前は知らないだろう。俺の本当の気持ちを。決して叶わないこの思いを・・・。)  触れているだけでも苦痛に感じる。  やはり、右京は貴之を友達として見ることが出来ない。  恋愛対象にしか思えないのだ。  心が傷付いて、血を流して悲鳴を上げている。  どうしたらこの想いを昇華できるのだろうか。  真実を告げれば、貴之は離れていく。  まして、身内に裏切られて頼る人もいない彼を、更に苦しめるなんて真似は、決して出来ない。  彼の逃げ道を閉ざしてはいけない。  必死で右京は貴之への想いを封印するしか、術はなかった。  部屋に入り、部屋着に着替える。  そしてカバンの中から荷物を取り出した時だ。  パサッと一枚の用紙がカバンから絨毯の上へと落ちていったのだ。  それを手に取り、見てみる。
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