穏やかな日々。

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 和臣とは二年前に知り合った。  箱根で個展を開催するからと律に連絡を入れた右京は、彼から『連れて行きたい人がいるから、その人と一緒に行くよ。』という返事を聞いて、驚きを隠せなかった。  過去に何度も誘ったが、一度もそういう返答をもらったことがないからだ。  事実、若い子に陶芸のよさが判るのは少ないと、右京なりに思っている。  右京も若い頃、両親から『地味じゃない?』と指摘されたことがあるからだ。  律が陶芸に興味を持ったのは、作品の仕上がる工程が面白い!というのが大きい。  昔、律が中学生の時に好きな子と付き合った時。  気を利かせて、右京は律に『デートコースにでも入れなさい。』と、陶芸展の招待券を渡した。  ところが翌日、律から右京宛に連絡が入ったのだ。  どうやら彼女が『陶芸なんてつまらない。』と言ったらしく、口論になって別れたらしい。 (悪いことをしたかな?)  そう思い、右京は律の分だけを確保しては送ったり、渡したりしていた。  過去のそういった事情もあったので、その時の律の返答を聞いた右京は驚きながらも、何故かホッとしたのを覚えている。  そして当日。  紹介されたのは、可愛い女の子(?)だった。  紹介もしてくれず、右京は『寂しいなあ。』と思って二人を見ていたが、彼女といる時の律は飾らない素の律になっているのを目の辺りして驚きを隠せなかった。 (あの律が、年齢相応になっている・・・?)  驚いた反面、凄く嬉しかったのを覚えている。  家庭環境が複雑だった律にとって、彼女の存在は彼の心の拠り所になっていたのだ。  更に驚きを隠せなかったのが、彼女だと思っていた子が男だったこと。  事情は律から聞いたが、幼馴染の恋のために女装をしていたのにはビックリを通り越して、呆れてしまった。 (普通、そこまでするのか?)  それが本音だった。  
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