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だが、和臣に会ってその考えは変わった。
(あの子だから、律は好きになったんだな。)
自分よりも他人の気持ちを優先して、それで自分が傷付いて苦悩しても、和臣は決して逃げなかった。
芯の強い部分を間近で見ていた右京は、和臣なら律を任せられると実感した。
(まさか、大学も同じで同居するとはなあ。)
和臣の両親には『学校も近いですから。』と律が頭を下げたらしい。
また、律の父親である貴之【タカユキ】から話に聞いたところ、二人は律の実家にまで出向き、貴之たちに挨拶をしたそうだ。
和臣の礼儀正しさに、貴之たちは同居を認めた。
同居というよりは、同棲である。
また、双方の両親に付き合っていることも話したそうで、当然のように驚かれたが、あっさりと認めてくれたそうだ。
和臣の両親が言うには『犯罪以外のことは、何をしてもいい。』と言われ、貴之たちからは『自由にしなさい。』の一言だけ。
貴之に関しては律に対して、負い目を感じているから仕方がない。
(あれから十二年か・・・。)
携帯で律を呼び出した後、右京は居間に戻ると仏壇の前に立ち止まった。
毎朝、欠かさず水と花を取り替えている仏壇の中央には、穏やかな笑みを浮かべる女性の遺影が置かれている。
和服で、髪を後ろでまとめている女性の遺影を見て、右京はフッと笑った。
「本当に、これで良かったんだな。俺は」
フッと微笑を浮かべる。
もし、彼女がいなかったらどうなっていたのだろうか?
右京は遺影を手に持ち、穏やかな笑みを浮かべている女性に口付けをする。
これが精一杯だ。
生きていたら、どんな生活を送っているのだろう。
逃げ場所を作ってくれた彼女。
挫折しそうになった時、常に応援してくれた彼女。
今でも覚えているあの言葉。
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