穏やかな日々。

4/5
270人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
 だが、和臣に会ってその考えは変わった。 (あの子だから、律は好きになったんだな。)  自分よりも他人の気持ちを優先して、それで自分が傷付いて苦悩しても、和臣は決して逃げなかった。  芯の強い部分を間近で見ていた右京は、和臣なら律を任せられると実感した。 (まさか、大学も同じで同居するとはなあ。)  和臣の両親には『学校も近いですから。』と律が頭を下げたらしい。  また、律の父親である貴之【タカユキ】から話に聞いたところ、二人は律の実家にまで出向き、貴之たちに挨拶をしたそうだ。  和臣の礼儀正しさに、貴之たちは同居を認めた。  同居というよりは、同棲である。  また、双方の両親に付き合っていることも話したそうで、当然のように驚かれたが、あっさりと認めてくれたそうだ。  和臣の両親が言うには『犯罪以外のことは、何をしてもいい。』と言われ、貴之たちからは『自由にしなさい。』の一言だけ。  貴之に関しては律に対して、負い目を感じているから仕方がない。 (あれから十二年か・・・。)  携帯で律を呼び出した後、右京は居間に戻ると仏壇の前に立ち止まった。  毎朝、欠かさず水と花を取り替えている仏壇の中央には、穏やかな笑みを浮かべる女性の遺影が置かれている。  和服で、髪を後ろでまとめている女性の遺影を見て、右京はフッと笑った。 「本当に、これで良かったんだな。俺は」  フッと微笑を浮かべる。  もし、彼女がいなかったらどうなっていたのだろうか?  右京は遺影を手に持ち、穏やかな笑みを浮かべている女性に口付けをする。  これが精一杯だ。  生きていたら、どんな生活を送っているのだろう。  逃げ場所を作ってくれた彼女。  挫折しそうになった時、常に応援してくれた彼女。  今でも覚えているあの言葉。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!