出会い。そして苦悩。

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出会い。そして苦悩。

 今から三十二年前に、右京と貴之は知り合った。  狭霧右京こと、伊瀬右京【イセウキョウ】は、中学生の時に自分が男相手にしか欲情しないことを悟った。  初恋は、教育実習生として招かれたOBの男性。  想いを告げることもなく、彼は学校を去った。  以来、右京は自分の性癖がばれないように極力、人間関係を持たないように毎日の生活を送っていた。  そして高校進学。  地域では二番目に偏差値の高い公立高校へ進学した右京は、ある出会いをしたのだ。  菅生貴之【スゴウタカユキ】。  新入生代表として、彼は在学生に挨拶の言葉を述べた。  舞台から見た、壇上の彼の第一印象は、気難しい雰囲気を持つ少年だと思っていたが、全くの逆だった。  後で同じクラスだったことが判明し、更には席が丁度隣同士になったことがきっかけになったのか、貴之が声を掛けてきた。 「俺は菅生貴之。名前で呼んでくれよ。君は?」 「伊瀬右京。俺も名前で呼んでくれよ。」  入学初日、二人は友達になった。  一緒にいるうちに、右京は貴之が男女問わずに人気者だと実感する。  教師からも信頼が厚く、しょっちゅう用事を頼まれていた。  一方、右京は自分の性癖を隠すために大人しくしている。  元々美術系が得意なので、部活も美術部に入部した。  放課後は美術室で絵を描く。  時々、美術教師の趣味で陶芸や工芸を行う場合もあり、それがきっかけで右京は陶芸に興味を持ったのだ。 (熱中するものがあれば、それだけで十分だ。)  日の目を見なくても、大好きな趣味の陶芸があれば、それだけでいい。  右京は貴之以外の人間とは接触もせず、至って普通に学校生活を送るつもりでいた。
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