270人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
出会い。そして苦悩。
今から三十二年前に、右京と貴之は知り合った。
狭霧右京こと、伊瀬右京【イセウキョウ】は、中学生の時に自分が男相手にしか欲情しないことを悟った。
初恋は、教育実習生として招かれたOBの男性。
想いを告げることもなく、彼は学校を去った。
以来、右京は自分の性癖がばれないように極力、人間関係を持たないように毎日の生活を送っていた。
そして高校進学。
地域では二番目に偏差値の高い公立高校へ進学した右京は、ある出会いをしたのだ。
菅生貴之【スゴウタカユキ】。
新入生代表として、彼は在学生に挨拶の言葉を述べた。
舞台から見た、壇上の彼の第一印象は、気難しい雰囲気を持つ少年だと思っていたが、全くの逆だった。
後で同じクラスだったことが判明し、更には席が丁度隣同士になったことがきっかけになったのか、貴之が声を掛けてきた。
「俺は菅生貴之。名前で呼んでくれよ。君は?」
「伊瀬右京。俺も名前で呼んでくれよ。」
入学初日、二人は友達になった。
一緒にいるうちに、右京は貴之が男女問わずに人気者だと実感する。
教師からも信頼が厚く、しょっちゅう用事を頼まれていた。
一方、右京は自分の性癖を隠すために大人しくしている。
元々美術系が得意なので、部活も美術部に入部した。
放課後は美術室で絵を描く。
時々、美術教師の趣味で陶芸や工芸を行う場合もあり、それがきっかけで右京は陶芸に興味を持ったのだ。
(熱中するものがあれば、それだけで十分だ。)
日の目を見なくても、大好きな趣味の陶芸があれば、それだけでいい。
右京は貴之以外の人間とは接触もせず、至って普通に学校生活を送るつもりでいた。
最初のコメントを投稿しよう!