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今でも覚えている。
あれは、高校二年の秋だった。
右京は実家暮らしで、学校からは歩いて三十分のところにある。
雨天の日はバス通学で、晴天の時は自転車通学。
ここ最近は、電車通学の貴之と帰ることが多かったので、歩いて通学していることも多々あった。
もちろん、貴之のアルバイトがない時は右京の家によっては遅くまで遊んでいたし、夕飯も一緒に食べたこともある。
右京の両親は、来るもの拒まずの性格で、高校に入って初めて息子が友人を連れてきたことに感激し、いつの間にか息子以上に貴之と仲良くなっているのだ。
右京にとっては複雑な心境である。
それでも楽しければいいかと思い、止めはしなかった。
部活で右京が遅くなっても、家に帰ると何故か貴之が遊びに来ては、しっかりと夕飯をご馳走になっていることもあった。
また、週末は必ず泊まってはアルバイトに直行していた。
そんな彼の行動を見て、右京は以前に貴之が言っていた『上辺だけの家族関係』という言葉の意味が、少しずつ判り始めてきた。
(貴之は本当に家に帰りたくないんだ。)
普段は楽しそうに笑っている彼の、心の中で抱え込んでいる問題。
他人の問題に手や口を出すつもりはないが、放っておくことが出来ない。
その気持ちが次第に強くなった時に、ある出来事が起きたのである。
秋は台風が来易い時期だ。
あの日も、夕方から暴風域に入るということで、放課後の部活動は中止になり、右京も急いで自宅に戻っていた。
部屋で音楽を聴きながらベッドの上で雑誌を読んでいると、玄関のチャイムが聞こえた。
(宅急便かな?)
そう思い、気に留めなかった右京だが、何度もチャイムが鳴るので不思議に思い、部屋を出た。
タイミングが悪かったのか、専業主婦である母親は夕飯の支度をしていて、手が離せないらしい。
キッチンで母親の様子を見てそう悟った右京は、リビングの入口に備え付けているインターフォンの受話器を取って対応した。
「はい。」
『右京か?俺。貴之。』
「貴之?」
驚きを隠せなかった。
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