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電話先で声を詰まらせる母に、俺は何と言って良いか分からずに「体をちゃんと休めなよ」と言って、電話を切った。
30年…。
長男の嫁だからと言う理由で、母は30年間…使用人のように扱われてきた。
そして、父はそんな母に謝りながら、自分も連絡係やまとめ役をこなし、30年間実の両親に使いパシリにされた。
そんな祖母と、絶縁状態になったハズなのに、何故か叔父や叔母から「長男だろ!」と責められて、看病する羽目になり、母は「初めて人間扱いされた」と嬉し泣きする。
結婚していない俺には、そんな結婚後の苦労や苦しみは想像出来ないし、何でそんな苦労をしなければいけないのか、俺には理解できない部分もある。
一つだけ、俺が思った事は…。
「俺も長男だ。
俺も、そんな苦労をいずれはするのだろうか?」
そんな思いだった。
この話には、後日談がある。
後日、祖母は病院で精密検査を受け直し、病気が分かった。
病名は“バセドウ病”
体内のホルモンバランスが狂って、肥りすぎたり、逆に痩せて筋肉が落ちたりする病気だ。
その為、祖母は2ヶ月くらい入院する事になり、入院に合わせて、ようやく叔父や叔母が動き出した。
理由は簡単。
入院であれば、“見舞いに行くだけで済むから”だ。
父は、俺に向かってそう説明して、笑っていた。
多分、笑うしか出来なかったんじゃないだろうか…。
更に、母は体調が思わしくなくて、救急車で運ばれたり、祖母は入院中に病院内を動き回り、わめきたてる為、“24時間家族の監視付き”となり、父は叔父と叔母と一緒に、母の分まで病院に泊まり込む事になった。
俺は、父に「手伝おうか?」と言ったが、父は「叔父と叔母に手伝ってもらってるから、気にするな」と言って笑っていた。
父のその姿を見て、どれだけ嫌いになったとしても“自分の親だ”と言っているようで…。
俺は何も言えなかった。
そして、退院が近付いた時、叔父や叔母は当然のように「退院後は老人ホームへ」と言い出した。
介護は、したくないのだろう。
だが、祖母は自分の家に帰りたがり、結局は自分の家に戻っていった。
介護をしたがらない親族は、当然のように祖母の元へは寄り付かない。
今日も、祖母はバセドウ病の治療をしながら、定期的に訪れる父や母に連れられ、病院へと通院している。
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