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レインコートに雪を纏わせた彼女は、さしずめ、文字どおり雪女か。
先に行ってればいいのに。
「うるさい。私の勝手でしょ?」
彼女はつっけんどんながらも、安堵したかのような視線を投げかけてくる。
どうしてだろう?
僕が来るまで、彼女は不安に苛まれていたのだろうか?
いや、彼女も不安なのだろうか?
何時かくる、二人での、最後の登校が。
桜さき乱れる坂道を、僕は一人で歩いていた。
桜の花びらは、厳かに散りゆき、街と海に華やかな色どりを添えている。
春は残酷な季節だ。と、言ったのは誰だったか。
出逢いと別れの季節。
強制された出逢いと。
強制された別れ。
運命は何時も強引だ。
二学年上の彼女は、この街を出て行ってしまった。
別れの言葉のない、乾いた別れ方だった。
今日から僕は二年間、一人で登校する事になるのだろう。心に空いた、空虚を抱えながら。
ふと、桜の花びらが、優しく鼻先を掠めた。
見上げると、儚くきらびやかに、桜が咲き誇っていた。
季節は春。
春は初恋の季節でもあるのだと、僕はむなしく自覚した。
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