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「おいおいおい。それでおしまいか? 告白は? しなかったのか?」
場末のカクテルバーで知り合ったその男は、奇妙な男だった。
やたら目付きの悪い茶色い瞳。茶色に染めた髪。スタイルは悪くないが、極端な猫背。
その男は葉木乃と名乗った。
葉木乃は面白い話しをすれば酒代を奢ると言った。
悪い話しでもなかったので、初恋話しを聞かせてみたのだが。
「情けないなぁ。それでも男かよ」
そこまでこきおろす必要があるのだろうか? しかも初対面の人間に向かって。
「そうゆう葉木乃さんは、どうなんですか?」
葉木乃の不気味に吊り上げられていた唇が、ピクピク痙攣している。
「まあ、うん。僕の事はいいじゃないですか」
急に声のトーンを変えて、葉木乃は俯く。
よほど聞かれたくないのかただならぬオーラすら漂わせていた。
可哀想すぎて、追及をためらう。
「まあ、初恋の思い出なんて、みんな似たり寄ったりですよ」
「そっ、そうか」
何気なくフォローをいれておく。葉木乃は、何処か遠くを見つめるような曖昧な色を瞳に宿した。
そう、初恋なんてものは互いに傷つけあうか、傷さえつかないかのどちらかしかない。
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