0人が本棚に入れています
本棚に追加
秋に特有の僅かな冷たさが、体に心地よい。
「おはよう」
何時ものように、少年は姿を現した。
寝ぼけた眼は非常に間抜けだ。
頭の上に枯れ葉を乗せていたので、さっと払ってやる。
「いくか」
うん。
日常、それは何時までも続く常。
そして、何時か必ず終わる常。
あるいは人は、それを運命と呼ぶのかもしれない。
雪は世界を無音にしていた。
桜は雪の花を咲かし、海はしずしずと妖精達を受け入れていた。
ただ静かに踊る白の中で、私は泣きそうになった。
季節が巡り、終わりを告げようとしている。
もうすぐ春が来てしまう。出逢いと別れの春が。
ふと、顔を上げると、そこに少年がいた。
本人に自覚があるようには見えないが、今にも泣き出してしまいそうな、不安な表情をしていた。
だから。
私は、私の不安を隠した。
私は不安から逃げた。
後悔すると、分かっていたのに。
私は自分の思いから逃げ出したのだ。
川原学園大学は、何処もかしこも桜が咲き乱れていた。
否応なしに、桜が少年の事を思い出させる。
これから始まる四年間に、少年はいない。
初恋は、桜と共に、散っていく
最初のコメントを投稿しよう!