第一章

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「本当に妖怪なのか?」 「本当に妖怪よ。ただの綺麗なお姉さんとでも思った?」 「あんなバカでかいやつ倒す女、普通いねぇよ。」 そう言って立ち上がろうとした瞬間、血を流し過ぎたせいか、そのまま倒れてしまった。 「く……そ………」 もう完全に身体が動かない。 喋るのがやっとの状態だ。 「その怪我じゃ無理もないわ。私の家に運んであげるからじっとしてなさい。」 「余計……な…お世話……だ……」 言葉を口にするたびに意識が薄れていく。 そして熱も出て来た。 「素直になりなさい。それに、行くあてもないでしょ?」 「………」 返す言葉も無くそのまま気を失った。 またこの夢か…… もう…… これ以上… 俺を苦しめるな…… その悪夢のせいで目が覚めた。 最悪の目覚めだ。 いつの間にか和室のような部屋で布団に入って寝ていた。 身体を起こそうとすると隣にいた猫のような耳と尻尾がある小さな女の子が手伝ってくれた。 「はぁ…はぁ……」 苦しい。 心臓が締め付けられるように。 とても苦しい。 「あ‥あの…大丈夫…ですか?」 心配そうな表情で俺の顔を見ながら言った。 少し戸惑っている様な感じだった。 「み…水を…貰えるか…?」 「あ、はい。少し待ってて下さい。」 そう言って部屋を出ていった。 しばらくすると水の入ったグラスを持って戻って来た。 「ど…どうぞ。」 グラスを受け取ると一気に飲み干した。 すると少しずつ楽になってきた。 「楽に…なりましたか…?」 不安そうな表情を浮かべながら聞いてきた。 「少しはな…ありがとな‥」 ぎこちないやりとりをしていると金色の髪をして9本の尻尾を持っている女性が入ってきた。 「よかった‥目が覚めたみたいですね。」 俺を見るなり安心したような表情で言った。 「橙、戻っていいぞ。」 そう言うと猫のような女の子は部屋を出て行った。 「あんたは……?」 「私は八雲 藍(やくも らん)。さっきまでいたのは橙(ちぇん)です。」
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