濁流

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『昨日はすまなかったな』   サウナに俺を置き去りにしたのを、部長が詫びる。   『朝寝坊しちゃいましたよ。危なく遅刻しそうになりました、あ、昨日はご馳走様です』   『わっはっはっ! スマンスマン。そうだ早川君、明日木戸支社長が本社に見えるそうだよ、君と話がしたいそうだ。今回の件……説明して下さるんじゃないかな?』     確定だな。   俺が今回昇進出来なかったのは、木戸支社長の意思だ。       大阪か。   もし本当にそうなったら、ユカにプロポーズしよう。   ユカと二人で出直しだ。     着いて来てくれるよなぁ……。     俺は昨日のショックを振り払うかの様に、一日中動き続けた。       『ただいまぁ』       ん? いないのか?   電気も点いて無い。     『ユカ? いないのか?』       うわっ!       ユカは、今朝と同じ場所に座ったまま外を見ている。     『おいっ! どうした?』   振り返ろうともしない。     『ユカ……』       『ケンちゃん……昨日、どこ行ってたの?』     『は? 部長と飲みに行くって言ったろ?』     『その後はっ?』     ユカ……?     目が真っ赤だ、それだけじゃない。   瞼が腫れている。     『どうしたんだよ?』     『ケンちゃん……正直に言ってくれたら、一回だけ我慢するから』     そう言うと、ユカはボロボロと涙を零し始めた。     『いったいどうしたんだよ? 何があった?』     抱き締めようとする俺の手を、強い力で振り払う。       『お願いケンちゃん……ユカ、知ってるの』     『何を言ってるんだよ?』       俺の言葉と同時に、リビングに激しい音が響いた。   ユカが、両手でテーブルを叩いたからだ。     『ケンちゃん、モバ友と会ったでしょ?』     『は?』     『これ……』     ユカはハンカチを広げた。     『これ何?』     ユカが手に持っているのは、俺のハンカチ。ハートマークが入っていた。     『何だよ、俺にカマかけてるのか?』     ユカの顔色が変わった。
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