14999人が本棚に入れています
本棚に追加
恐らく私服の警官だろう。隣のオタクを取囲んでいる。
『離せよっ! ただの葉巻だって!』
『いいから歩けっ!』
開け放たれたドアからは煙草の煙の様なモノが漂っていた。
俺の見ている前で、オタクはそのまま連行されて行った。
『やぁ、お騒がせしました』
その場に1人だけ残った、初老の男が会釈をしている。
『早川さんですね?』
?
表札も出してないのに。
『少し宜しいですかな?』
そう言うと、男は玄関へと入ってきた。
『これはアナタが署に持ち込んだモノですね?』
!
『ケンちゃん、これ……』
『ああ』
そう、俺とユカを恐怖に陥れた、あの手紙だった。
『それと彼が何か?』
『ん~』
男は頭を掻くだけ。
『それは斉藤さんがやったんじゃないんですか?』
『分かりません……実は彼、大麻所持の疑いで逮捕したんですが』
『タイマー?』
『ユカ、そっち行ってろ?』
『はははっ。まぁ前歴もありましてね、詳しくは言えませんが、彼から大麻を買ったという密告で今回踏込んだんですわ』
『遠回しな言い方はやめませんか?』
『ふふっ、失礼失礼。つまりそのぉ……何と言ったら宜しいかな。つまり、この怪文書からですな、彼の指紋が検出された訳ですわ』
『つまり?』
『まぁ……アナタの調書を拝見しましたが、あの夜これをお宅に投函したのは、彼かも知れないと』
『ええっ!?』
背中でユカが驚く。
『じゃあ、隣の人に狙われてたの?』
ユカはその場にしゃがみ込んだ。
『早川さん。大変失礼なんですが、彼との間に何かトラブルは?』
『名前も知らないし、ほとんど話した事も無いですよ』
『そうですか……いずれにしても、取り調べはこれからですから、何か分かったらお知らせします』
そう言うと、男は去った。
『ユカ、大丈夫か?』
ユカは怯えていた。
『さあ……』
『嫌っ!』
俺が差出した手を振り払い、ユカはベッドルームにとじ込もってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!