濁流

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恐らく私服の警官だろう。隣のオタクを取囲んでいる。     『離せよっ! ただの葉巻だって!』     『いいから歩けっ!』    開け放たれたドアからは煙草の煙の様なモノが漂っていた。   俺の見ている前で、オタクはそのまま連行されて行った。     『やぁ、お騒がせしました』   その場に1人だけ残った、初老の男が会釈をしている。     『早川さんですね?』       ?     表札も出してないのに。     『少し宜しいですかな?』     そう言うと、男は玄関へと入ってきた。     『これはアナタが署に持ち込んだモノですね?』       !     『ケンちゃん、これ……』     『ああ』     そう、俺とユカを恐怖に陥れた、あの手紙だった。     『それと彼が何か?』     『ん~』     男は頭を掻くだけ。     『それは斉藤さんがやったんじゃないんですか?』     『分かりません……実は彼、大麻所持の疑いで逮捕したんですが』     『タイマー?』   『ユカ、そっち行ってろ?』     『はははっ。まぁ前歴もありましてね、詳しくは言えませんが、彼から大麻を買ったという密告で今回踏込んだんですわ』     『遠回しな言い方はやめませんか?』     『ふふっ、失礼失礼。つまりそのぉ……何と言ったら宜しいかな。つまり、この怪文書からですな、彼の指紋が検出された訳ですわ』     『つまり?』     『まぁ……アナタの調書を拝見しましたが、あの夜これをお宅に投函したのは、彼かも知れないと』       『ええっ!?』       背中でユカが驚く。     『じゃあ、隣の人に狙われてたの?』     ユカはその場にしゃがみ込んだ。       『早川さん。大変失礼なんですが、彼との間に何かトラブルは?』     『名前も知らないし、ほとんど話した事も無いですよ』     『そうですか……いずれにしても、取り調べはこれからですから、何か分かったらお知らせします』     そう言うと、男は去った。       『ユカ、大丈夫か?』    ユカは怯えていた。     『さあ……』     『嫌っ!』       俺が差出した手を振り払い、ユカはベッドルームにとじ込もってしまった。  
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