濁流

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『おいっユカ!』     『来ないでっ!』     『大丈夫、何も心配無いって!ここ開けろよ、なっ?』     ユカはベッドルームに鍵をかけていた。     『お願い、今は1人にして……もう何が何だか分からないよ』     ユカ……無理も無い。 俺だってパニックだ。これ以上2人で話しても何も解決しそうにない。   何でこんな事になっちまったんだ、悪いのはいったい誰なんだ。   抗えない強い力に押し流されそうで、俺は苛ついていた。       うっ……頭が。   割れそうだ……。       …………。       ユカ。   俺のユカ。   誰にも渡さない。           どうやら俺は、床で寝てしまったようだ。体中が痛い。   仕事に行かなきゃ。     周りを見渡しても、ユカはいない。いつもならとっくに朝飯が用意されてる時間なのに。   俺はベッドルームをノックした。     『ユカおはよう。俺会社行くよ』       慌てて動いている様子が聞こえる。     『痛てて……』     起きてはいるみたいだな。     『ユカ、帰ったらもう一度ちゃんと話そう。俺は浮気なんてしていない……愛してる』       俺は身支度を済ませ、玄関へ向かった。   見送ってはくれないか。     駅に向かいながら携帯を開く。 ユカは昨夜、モバで俺の事を相談していた様だ。無責任で身勝手な返答が板に並んでいる。   こんな誰でも見る事の出来る場所での台詞に、何の重みも無いってのが分からないのか?   俺だって見るかも知れないのに……。     もしかしたら、それすら折り込み済みか。   このSOSは、本当は俺に向けられてるのかもな。     早く解決しないと、俺達の関係そのものが濁った流れに飲み込まれてしまいそうだ。       俺はこんなにユカを愛しているのに。       『おはようございます』     会社に着くと、伊東が自分の机を雑巾掛けしていた。   余程昇進がうれしいんだな。     『やあ、早川君おはよう』     早川君?   とうとう君よばわりかよ。     鬱陶しいな。     そう言えば、今日は木戸支社長が来るんだっけ。   俺から大阪行きを志願しようかな……。
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