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……君。
……川君。
『早川君!』
『はいっ!』
(やっべぇ……)
部長が俺を呼んでた。
『ちょっと時間いいか?』
『はいっ、ただ今』
不意を付かれた俺は、慌てて部長の後を追った。
会議室?
『まぁ、座れ』
わざわざ二人きりで会議室なんて……。
明らかに世間話をする風ではないな。
『最近はどうだ?』
(ちっ、どうって何がだよ)
俺はこの部長の、回りくどいヤリ口があまり好きではない。用があるなら早く言って欲しいものだ。
『まぁ、ボチボチですかね』
自分が嫌になるが、この手の言い回しには、そう返すしかない。
『ははん。営業部のエースがボチボチでは困るな。さっき私がオフィスに顔を出した時も、携帯の画面に夢中だったようだが……あれか? 出会い系か? わっはっはっはっ』
一気に冷や汗が出る。
あの時俺は、ユカがしつこいから日記の更新をしていた。
『冗談はさておき』
(くっ……)
俺もユカと変わらない。
『君はバツ2だったかな?』
な、なんだ? 仕事の話じゃない雰囲気だ。
『営業係長としては、オフィスで出会いサイトに興じる以外は文句はない』
(痛っ!)
『しかし……。家庭を持ってないというのはいかがなモノかな?』
は? いったい何の説教のつもりだ? この人にプライベートを云々される謂れはない。
『実はね、大阪支社長の娘さんがね……。事情がお有りでな。まぁ、有体に言うとバツ1な訳だよ』
(オイオイ、まさか?)
『歳は今年31なんだが、スラッとした美人だよ』
(こりゃ間違いないな)
『いや……あの……部長? 私は、その……』
『なんだ? 結婚はもう懲り懲りか?』
(参ったな)
『支社長もな、長女が出戻ってから二年も男っ気が無いからご心配なすっててな』
話がとんでもない方向へ進んでいる。何でそんなお嬢様を俺に。
『堅苦しいお見合いじゃなくってさ。食事会って感じでどうだ? 会ってみないか?』
『部長……なんと申しますか』
『なんだ? 女でもいるのか?』
…………。
即答出来ない自分が嫌になる。
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