彼女

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客からの電話も二件。   こっちもなんとか事無きを得たが、金曜に飲みに行く約束をさせられた。タカられる訳ではないが、めんどくさい話だ。   変な態勢で寝てたのと、寝起きに焦ったせいで、余計に疲れた気がする。今日はゆっくり休んで明日はちゃんと仕事しよう。   一応まだ仕事中なのだが、足は完全に家に向かっている。   そういえばユカがカレーって言ってたっけ。   帰ったらメシが出来ているというのは、まぁ悪い気はしない。     いつもの電車に揺られ、真っ黒な窓を見ながら、普段は思いもしない事を考えていた。   実際は考えると言える程、テーマが明確では無かったが。     ……!     体の向きを変えた瞬間、ある中釣り広告に、だらけて朧な思考回路が一気に目を覚ました。     『増殖するネット依存症の妄想族』     正しく今のユカを表す表現に思える。     いつからあんな風になったのだろう? 確かに最初っから変な女ではあったが……。   初めて会ったのは知り合いに連れて行かれたラウンジ。ああいう店は何度も自己紹介しなければならないのが鬱陶しい。     初めまして→何時から飲んでるんですか?→お仕事何されてるんですか?→お名前伺ってよろしいですか?     少し気の利いた女でも、これに天気の話題が加わる程度。   まぁ、この差し障りの無いやり取りで、相手の情報を仕入れ、声のトーンなんかから会話の強弱を調整するトコロは俺たち営業と一緒なんだが。     『ぷっ』   俺は思いだし笑いをしていた。  アイツは乗っけから度肝を抜いてくれたなぁ……。     『普段から洋服着てるんですかぁ?』   その場にいた全員がポカーンとしてたっけ。   緊張して言葉を間違えたんだろうが、何を言おうとしたかも想像出来ない程、訳の解らん質問だった。       多少……。いや、結構変なトコロはあったが。     ネット依存症……。     妄想族……。       なんだか怖くなってきた。     一度ちゃんと話すか。       そんな事を考えてるうちに、電車は駅に着いた。       『ちっ。雨降ってらぁ』     仕事をさぼった罰か。走れば五分だ。覚悟を決めて飛び出したその時。           『ケンちゃん!』   ユカが駆け寄ってきた。  
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