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『圏外だったからきっと地下鉄と思った!』
『ああ……』
『うれしい?』
『雨に濡れずに済むからな』
我ながら素直じゃない。ユカの顔が見えた時、ホッとしたのは事実だ。
『お礼に買い物付き合ってね』
『ええっ!』
『コンビニに牛乳買いに行くだけだから……。あっ!』
何かに気付いた様にユカは再び駅の方へ駆けて行く。
ああ、隣りのオタクだ。
……!
バカかアイツ、傘を渡してる!
少し髪を濡らしながら戻って来るユカ。
『お前、何考えてるんだよっ!』
『ジャーン! 相合い傘』
…………。
『さあ、どうする? 買い物付き合わないでビッチャビチャで帰る?』
ユカの腕は、既に俺の腕にしっかり絡み付いていた。
『一日着てたスーツは、雨に濡れると臭いからな』
『くちゃいくちゃい』
俺の腕に顔を押しつけるユカ。引き摺られる様に家とは反対に歩くしか無かった。
まぁ……。
たまにはいいか。
(オイオイ……)
こうなるんじゃないかと予想はしてたんだが。
なんでコンビニで五千円も使うんだ。しかも俺の財布から……。
会社からタクシーに乗ってもこんなに行かないっての。
ブツブツ言いながらエレベーターを降りると……。
『!』
部屋の前にオタクが立っていた。
しかもズブ濡れだ。
『傘、使わなかったんですか?』
気色悪く胸の辺りまで伸ばした髪が雨に濡れ、昔ビデオで見たホラー映画のラストを思い出させる。
無言で、ユカの渡した傘を突出す。
会釈をしながら傘を受け取ったユカの腕を、無理矢理引き寄せ部屋へと入った。
『何なんだアイツ、気色悪いな!』
『何で傘使わなかったんだろう』
『知るかっ! もうアイツと関わるなよ!』
『風邪ひかないといいね』
『ああっ腹減った、メシにしようぜ』
その時俺は、ユカのアイツに対する些細な興味をも断ち切りたかったのかもしれない。
カレーをたらふく食べ、俺はシャワーを浴びた。
さっきの中釣りをアッサリ思い出させる様に、ユカは携帯に夢中だ。
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