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ああ、気持ち悪い。飲み過ぎた。明日も仕事だってのにヤバイな。
『あ、運転手さん、ここここ!』
もう二時か。五時間……いや四時間も寝れないな。
『あれ?』
ウチの電気が点いている。ユカの奴、まだ起きているんだろうか?
気を使い、一応そっと鍵を開ける。
テレビの音が聞こえていた。
『起きてんのか?』
『あ、お帰りなさい』
ユカの手には携帯が握られていた。
『最近遅いね』
ネクタイを解きながら聞き流す。
『キャバクラ?』
スーツにこびり着いた、夜の街の残り香が、俺に罪悪感を押し付けていた。
『ケンちゃん? 話があるんだけど』
『明日にしてくんないかな』
(やっちゃったよ……)
飲んで帰った後ろめたさが、逆に俺をぶっきら棒にさせていた。
『うん、分かった』
俺から離れ、キッチンに向かうユカ。
『はい、お水』
『いらね』
(ああ、もうドツボだ)
今夜は取りあえず寝てしまうしかないな。
ユカをリビングに残し、俺はベッドへ逃げ込んだ。
アイツ何してんだ? 寝室に入ってくる気配がない。
今更声をかけるのも気が引けた。
カチ……カチカチカチ、カチカチ……。
無機質なモールス信号の様な音が微かに響く。
アイツまたモバやってるのか?
一瞬苛ついたが、布団の温もりが俺の意識を奪い始めていた。
カチカチカチ、カチ……カチカチカチ……。
あの……バ……カ……。
『起きて、ケンちゃん!』
『んがっ』
『んが、じゃないよ。もう七時だよ』
もう朝……。
あれ? ユカはすっかり身仕度を整えていた。
『どっか行くのか?』
『出勤前にちょっとね』
『ちょっと?』
『うん。主任のお母さんのお見舞いだよ』
『ふぅん』
『朝一緒にウチ出るなんて、初めてじゃない?』
味噌汁を注ぎながら、ユカははしゃいでいるように見えた。
他愛もないやり取りだが、モバと関係なく、ユカが携帯を握ってもいない会話が久しぶりに感じる。
違和感か?
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