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ユカが一瞬違う女に見えた。
次の瞬間本能がその感覚を打ち消していたのだが。
『なんか話あるって言ってなかったか?』
かなり照れ臭かったが、ユカとの日常を確認したかったのか、不意に口をついていた。
『ん?』
ユカにとって意外なセリフだったのか、箸を止め俺に顔を向ける。
『ゆうべの事覚えてんだ?』
イタズラな笑みを浮かべて俺をからかうユカ。
『いや、断片的にね』
もちろん昨夜の短いやり取りが記憶から消える程、深酔いはしていない。
『へぇ~、じゃあ「ユカっ愛してるよっ!結婚しようっ!」って押倒した事は?』
『あほ……』
『ふふっ』
後で思えば、この時ユカは俺を試していたのかもしれない。
『ヘイ! ケンの字! 遅刻すっぞ! 行くべ!』
結局昨夜の『話』は聞けず終いだったが、ユカはいつものユカだった。
『じゃあ、お仕事頑張ってね。行ってらっしゃい!』
逆方向へのホームに向かって、俺達は別れた。
『はぁ……』
つまらない罪悪感が食道の辺りを圧迫している。
アイツの昼休みにでも電話するか……。
『ちっ』
こういう小細工しか思い付かないトコロが、男の弱さだよ。
電車を下り会社へ歩く間、俺はモバの画面を開いた。
「春☆姫」の板に一言『昨日はゴメン』的なコメントを残すつもりで。
アイツが喜びそうな方法が他に見当たらずに。
『ん? なんだこれ?』
>>おはよう✋ どうだった? うまくいった?
書き込んでいるのは「@シャングリラ」とか名乗る……。
男!
別に疑う訳ではないんだが……。
(い……いいよね、見ても)
ユカの返事が気になった俺は、@シャングリラを追いかけた。
>>返信済みのコメは消去します。悪しからず✋
しまった。
無意味な足跡を付けちまった!
しかし、俺を除けば最新の足跡は……。
春☆姫!
ええいっ! ままよっ!
春☆姫の足跡を追いかける。
……?
どういう事だ?
たった今見たばかりの@シャングリラのコメントが、既に削除されていた。
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