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「李!準備はどうなのだ」
上下緑色の制服。きらびやかな勲章をジャラジャラと胸につけ一目見て軍人と判るいでだちの男が言った。
「はい。人員の集結は完了し、乗船を開始しています。」
李(り)と呼ばれた男が報告する。この男は上下カーキ色の服を着ていて、一見すると工事現場の作業員かと見えるが、男の手には工事現場には不似合いなライフルが握られている。そして胸や腰には勲章の代わりに長いマガジンポーチが沢山ついている。
「うむ。よろしい。この作戦は偉大なる総書記様の長年の計画であるからな」
制服の男は言った。
「そうですね」
李は短く答えると横目で制服の男を盗み見た。
貧相な体。昔はもっと太っていたのだろう。ダボダボの制服がそれを物語る。
(そんな貧弱な体で銃が撃てるのか?ネズミ一匹殺せる気がしない)
李は軍隊に入隊してからいままで20年。過酷な訓練をこなしてきた。そのため服を着ていても判る筋肉。
彼の細い目に光りはなく、何の表情も浮かべないその目は漆黒の闇そのものであった。
おそらく制服の男にはこの塔の外の様子など見えないのであろう。
李には全て見えていた。夜目を聞かせる訓練など初歩の初歩だ。
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