零壱.語り継がれなかった物語

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「失礼します。今日から雨雫姫様に仕える蒼天龍虎と申します」 「………入ってください」 囁くような小さな声には流石に緊張してしまうな…。 顔を強張らせて中に入った。 「貴方が………龍虎殿…?」 「はい。今日から宜しくお願いします」 「自由…にして下さい……」 顔を上げた俺が見たのはどうもおどおどした様子の雨雫姫。 この人は本当にかの左大臣の娘なのだろうか…。 「今からどうしますか?」 「あ……今…宮中の桜が満開だから…その……」 「見に行きたいんですね?なら行きましょう」 「え………うん!」 ドキッ 初めてみた雨雫姫の笑みはとても可愛らしく美しく、まるで花のようだった。 俺は赤くなった顔を隠すように彼女に先を歩くよう促した。 よく見れば、本当によく見ればだが。 彼女はとても美しかった。 小さな体より長い烏の濡れた羽のような漆黒の艶がかった美しい髪。 若さを表すような鮮やかな色の着物を上手に着こなすその器量。 小さい顔を占領する大きな瞳。 世間的にははしたないと言われる顔かもしれないが、それでも俺には可愛らしかった。 ………会ったばかりなのに何言ってんだかな……。
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