零壱.語り継がれなかった物語

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その時俺は雨雫姫に人通りの少ない庭で数学を教えていた。 「おや、雨雫何をしているんだい?」 「彰子…姉様…」 「あ、彰子姫様!」 今御簾から顔を覗かせて声をかけてきたのは優秀といわれている彰子姫。 まぁ、あの紫式部がついてるんだもんな。 俺もこんな人に仕えてみたかった…。 そう思いながら地に膝を着き、頭を下げた。 「全くはしたない娘だねぇ。いくら裳着前だからって…外に出て身を晒すのは慎みなさい」 「はい……申し訳ありません…」 姉妹間のこの格差は何だろう。 今、俺は気が付いた。 滅多に…というか他の貴族の姫に会ったのはこれが初めてである。 まず、お召し物だが疎い俺でも分かるくらい、雨雫姫の着物はみすぼらしかった。 といっても、庶民の目から見たら十分豪華なのだが。 そして、従者の数。 あちらには男が居ないが(当たり前だが)、その代わり女房が多くいる。 本当に俺は馬鹿だと思うが、雨雫姫に女房は一人も居なかったことに気が付いた。 たまに乳母が顔を見せに来る程度。 話によると、乳母は病気で長くなく雨雫姫が実家に帰らせたらしい。 従者は俺一人。 一体どうしてなんだ…?
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