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ぶるり、身震いがする。
とはいっても戦場におりたときに感じる武者震いなどではさらさらなく。
春にしては少し肌寒い、されど青い空が気持ちいいほどに目立つ天候のせいだ。
幸村はふっと笑みを浮かべた。
本人はそのつもりはなかったのかもしれないが、春に惚けるのも仕方ないほどに心地よい風景であった。
「嬉しそうだな」
庭先を見つめていた幸村のそばに湯気の立つ湯呑と、愛らしい金平糖をいくらか乗せた懐紙が置かれた。
声の主の方へ幸村は視線をやった。膝を折り笑みを湛える友に、そうかですか、と問いで返した。
すると彼も、違うか、と問うて返した。
「そのような顔を拝見するのは久方振りだったからな」
「…そんなに緩んでいましたか」
「悪いことではないぞ」
そう眉根を寄せるな
気の緩みが許せなかったのか、自然と眉間にしわを寄せた幸村に諭すように言う声は、肌寒い空気を穏やかなものにする。
声もなく笑う様子ですら彼の気を緩ませるのに十分だった。
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