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「こうしていると、乱世は終わったのだと勘違いしてしまうのです」
湯呑からあがる湯気を気にすることなく口をつけ、やはり熱いと苦笑いをした。
そこには自嘲めいたものが感じられた。
乱世など、終わっていない。
今感じているこの小さな穏やかも嵐の前の静けさに過ぎず、春を戸惑わす身震いも死を恐れぬ武者震いへと変貌する。
安穏とする日々が伸びるにつれ戦場を意識してしまう。
一刻も早く戦場に降り立ち、この感情を抜き去ってしまいたい。
そう独り言のように零した。
「すいませぬ、何を言いたいのか自分でもわからないのです」
「いいや」
三成は何を思ったのかその場を立ち、幸村の視界から消えた。
もともと俺は人と話すことを得意としないのだ。きっと彼も私の話がつまらなかったのだろう。
つらつらとごちた言葉たちを思い返しては眉尻を下げた。湯呑の中の茶は喉を通る熱さになっていたが、どうにも通す気になれなかった。
三成殿は不思議な方だった。
幸村と知り合ってからもう半年にはなる。彼は幸村の些細な仕草に敏感に反応する。小さく溜息をつけばどうかしたのか、っと心配をし、書簡に没頭していればなにを怒っているのかと不躾にも尋ねてくる。
まるで心を見られているようで、覗かせまいと気を張れば張るほど彼は笑って言うのだ。
『幸村は自分が思うより素直なヤツなのだよ』
それ以来、彼と居るのが楽になった。弱音や怒りといった隠したい感情も、三成殿の前では封を切ったように流れ出てしまう。それが楽で、つい縋ってしまっていたのかもしれない。
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