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最近は戦もなく、穏やかな日が過ぎていった。
それは、この佐和山城も例外ではなく、皆、束の間の平和を楽しんでいる。
左近ものんびりと、愛刀の手入れをしていた。
――と、その時。
「………ん?」
左近の耳に、小鳥の歌声以外の音が届いた。
しかもそれは、だんだんと大きくなってきている。
どすどすと聴こえてくる、不協和音。
左近はそれが何を意味するのか瞬時に理解して、はあ……と溜め息を吐いた。
(また殿の大声が響いちゃいますか……)
半ば諦めモードの左近に呼応するかのように、大きな足音は、左近の自室の襖の前でぴたりと止む。
そして、すぱんと音を立てながら襖が勢い良く開けられた。
「左近! こいつから目を離すなと、何度言わせる気だ!!」
左近の想像通りの三成の怒声が飛び、ひょいと片手を持ち上げられる。
持ち上げられたのは小さな少女で、まるで猫の子のように後ろの襟を掴まれている。
「悪さでもしないよう、首輪でもつけておけ。」
「殿、猫の子じゃないんですから。……ほら、こっちに来い。」
左近がそう言うと、少女は嬉しそうに笑いながら両手を左近へと伸ばした。
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