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三成は、少女をそのまま左近の方へと投げた。
「おっと。」
ぽすっ、と左近の腕の中に少女の体が収まった。
「殿、もうちょっと丁寧に扱って下さいよ。嫁に行けなくなったらどうしてくれるんですか。」
「ふん。そんなに嫁に出したいのならば、まずは作法をしっかり身に付けさせろ。」
三成の嫌味など理解していないらしく、少女は左近に抱きついてきた。
左近も左近で、少女の頭を優しく撫でてやる。
「環、一体何をしたんだ?」
「えっとね、お姉ちゃんが読んで良いよって言ったご本を読んでたの。」
左近の問いに環は答えた。
その表情は、ここに来る前に三成にこってり絞られたのか、あまり冴えない。
三成は機嫌が悪そうに舌打をした。
「……確かにそうは言ったが、絵巻に落書きをして良いとは言っていない。絵巻どころか、部屋中が墨で真っ黒だ。畳も襖も、もう使い物にならん。」
そこまで聞いて、事の重大さを理解した左近は乾いた笑いを溢した。
三成も三成で、既に諦めたらしく、いつものようにあまり言ってはこなかった。
「……左近。環に礼儀作法と、俺は男である事をしっかり教えておけ。……くそ、貴様が色々ふざけた事を抜かすから環も真似するのだ。親が子に悪影響を及ぼす典型的な例だな。」
「……はあ。すいませんね、うちの娘が。」
左近は環の代わりに、三成に頭を下げる。
環は左近の実娘だった。
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