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090313 水泡
僕は水に触ると溶けてしまうのさ。
そう言うと少年は愉しげに目を細めて笑いました。そう言われてみれば少年は雨の日にはずっと家にこもっていたような気もします。少年は少しの水分もダメなんだと、今度は悲しそうに目を伏せて笑いました。泣くことさえ許されないその体はとても小さくて脆いのでしょう。少年はどんなに泣きたくても、いつでも笑っているようなそんな人でした。パサパサに乾いたパンとカサカサに乾いた野菜をかじりながら少年は毎日を過ごしていたのでした。それはきっと凄く退屈に違いありません、僕はそんな少年の目の前で温かなスープを啜ってしまったことがありました。それだけではありません、僕は雨の日に傘もささずに外へ出てははしゃぎ、暑い時には水道からコップになみなみと水を汲んでがぶがぶと飲んだこともありました。その度に少年はどんな気持ちで僕を見ていたのでしょう。少し考えただけでそれはとてもとても寂しいことだとわかりました。ごめんなさいごめんなさい、謝り続ける僕を見て少年はただ気にしないでと優しく微笑みました。なんて美しい心を持った人だろう、僕は思わず涙を流しました。それほどまでに少年は心優しく、思いやりのある人でしたから。僕は泣きながら少年の手を取り、ありがとうありがとうと今度は感謝し続けました。ふと、僕の涙が少年の手のひらにぽとりと落下しました。あ、と軽く声に出す間も与えてもらえないまま、少年は静かに溶けて消えてしまいました。
(090313)
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