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090405 愛情を素通り
安らかに眠ってくださいと微笑みながら私の喉を刃で切り裂いたのは紛れもない貴方だというのに、そうそれはとても素敵な笑顔で私の返り血を浴びたというのに。そうです、私は貴方の裏切りを知っていました。貴方はいつだって私に笑顔しか見せないのだから気付くのはとても容易いことでした。私の言うことが正しかろうが間違いだろうがはたまた矛盾していようが何だろうが貴方はただ私に付き従っていました。それで私の信頼を勝ち取ったのだと貴方は思い込んだのかもしれませんがだとすれば貴方は相当の大馬鹿者になりますよ、だって私は結局最期まで貴方を信頼してなんかいなかったのだから。
ならばどうして素直に喉を差し出したのか貴方のような殺人鬼にはきっとわからないと言うのでしょうね。けれども貴方は本当は理解出来たはずです、何故ならば安らかに眠ってくださいと告げたその口元はおかしなくらいに震えて歪んでいたのだから。けれどもああなんて滑稽なのでしょうかね、貴方は結局何も気付くことがないまま次の標的のもとに行くのでしょう。そうして何度も何度も同じことを繰り返してはいつしか途方に暮れるのでしょうね。ああなんて愚か。私の喉を切り裂いた時に貴方が流した涙に気付くことさえ出来れば、また違う未来が待っていたでしょうに。
愛
情
を
素
通
り
私も貴方を愛していたから喉を差し出してあげたのですよ、気付かなかったでしょうけれどね。
(090405)
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