如月さん、お仕事です!

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   事務所の電話がせわしく鳴り響いていた。普段なら数秒もしないうちに「彼」が電話をとるのだが、一体どうしたものか今日に限って外出しているようだった。  ふむ。仕方がないので、このけしからん音を善処することにしよう、と思い立ったは良いが、どうにも私には不慣れなものだから、さて、電話に出たら先ず何から話そうか、などと考えてしまう。   「…………」    受話器を掴むと、そのけしからん電子音はすぐに消えた。  だが、代わりに訪れた沈黙は、私と電話の相手をただ戸惑わせるだけだった。それら延べ、時間にして十秒足らず。    私は「もし、いや」と言い掛けて、再び黙り込む。  すると、痺れを切らした電話の相手が先に口を開いた。   「あの、すみません。そちら、探偵事務所“月屋”で間違いないでしょうか」    依頼だ。私はすぐに電話を切ろうかと本気で悩んだが、そんなことをすればきっと「彼」にこっぴどく怒られるに違いない。さて、どうしたものか。  
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