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「…はい?」
唐突にそう言われ、何が何だかわからない。
カリンはただ社長を見つめている。
それとは対照的に彼は満足そうにタバコをふかし始めた。
「…あ、あの」
カリンがたまらずに質問する。
「ん?なんだね?」
社長がキョトンとしているカリンを見て、訳が解らなそうに目を細める。
「あー…。聞きたい事が山ほどあるんですけど…」
「どうぞ」
彼が身振りを付けて続きを促す。
「あ、じゃあひとつだけ。 私を採用して下さった理由は…?」
カリンは恐る恐る訊ねる。
彼はちらりとカリンを見た。
「……女」
「……はい?」
全く的外れに聞こえる答えにカリンは聞き返してしまう。
「いや、だからね。 ここにはマーベルちゃんしかいないんだよ。若い娘が。もう少し華が欲しいなぁーってさ。まぁ、作業要員が欲しいってのも事実なんだけどねぇ」
呑気な口調でそう言う。
「……それが、理由?」
予想していた答えとは全く違う答えに驚きを隠せないでいた。
「…まさか、自分の能力が認められた。とか、思ってた?」
「……」
図星だった。
「まぁ、確かにSSでこの成績で、これだけの身体能力、技術があれば充分だと思う。しかもこの歳で女の子ときたもんだ」
誉められているのかどうなのか、微妙な雰囲気だ。
何より、女の子ってのがカンに触った。
「だがな、カリン君。世の中、学生が夢を叶えるなんざそう簡単なことじゃあない。ましてや君は女の子だ。どんなに頑張ったって限界がある。だろう?」
「……」
何度も何度も、この理由で断られ続けたのだ。
つまり、女の子という理由で断るのは簡単な訳だ。
「それじゃあ、なんで私を採用してくれるんですか? 本当に華が欲しいだけ、って事ですか?」
「……私は夢に真っ直ぐなヤツが好きだ」
「夢、ですか?」
「あぁ、カワムラから聞いたよ。君が夢を叶えたい。そう強く言っていたと」
カリンは真っ直ぐに社長を見る。
「……夢に破れた老兵はな、若い者の夢を手伝いたくなるものなんだよ」
それは良い答えなのだろうか?
カリンの理解力では追い付かなかった。
「まぁ、なんというか。君の夢を叶えられるのはここぐらいなのだろ? どんな夢かは私には解らない。 が、もしそうならば、私は君を採用せざるを得ない。 いや、採用したいのだ」
そう言いまたタバコをふかす。
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