はじまり

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地球暦2522年。春。 日本、東京city。   とあるビルにある職安の一室。 そこで彼女はどっしりとした椅子に腰かけ、面接を受けていた。   面接官は冴えない感じの中年男性。 ヒューマ(人間)だ。   彼女は緊張もあってか、無意識の内に癖が出ていた。 長く白い耳を上下にピクピクさせている。     「あー、イナバ=カリンさん。ラビットクオーターね。18歳。成る程…、SS(スペース・スクール)を卒業したてね…」   彼は手に持つ書類に目を通しながら、うなるようにそう呟く。   考え深げに頭を掻く彼を彼女はソワソワと見ている。   「あ、あのー…。何か問題あるでしょうか…?」   ついに耐えきれなくなり、彼女は彼に聞いてみる。   「あ、いやいや。すまないすまない」   彼は苦笑いを浮かべる。   「君の経歴自体はなんら問題ない。いや、むしろ良好なほうだ」   彼はそう付け加える。   「あ、はい! 見た目はこんなんですけど…。成績と体力には自信ありますから!」   彼女はニコニコとしながら自信満々にそう言う。   「あぁ、そのようだね。 ただそのー。率直に聞かせてもらっていいかな?」   彼は頭を抱えて聞き返す。   「あ、はい!なんでもどうぞ!」   「なぜこの就職先なのかね? 君の成績ならもっと良い所にいけるだろうに。それに、あー…。こう言っちゃなんだが、君の体格だとこういう仕事はちょっとな…」   彼は自分が悪いかのように申し訳なさそうに言う。   「…この身長の割には確かに体力も筋力もあるとは思う。しかしだね、そんな肉体労働より頭を使うほうが…」   「私! 夢が、あるんです…」   彼女は思い切り、おもむろに口に出した。   その目は頑固たる決意と希望に満ち溢れている。 長年この職安に勤めている彼には、彼女の目に揺るぎないものを感じていた。   「夢、か…」   簡単に就職できるこんな時代に、まだこんな若者がいたとは…。   彼は感動を覚えていた。   それと同時に、この子の夢を叶えるのに少しでも力になれたら、と思っていた。
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