ハジマリ

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もう少し…。もう少しで手が届く。 身体にまとわり付く体温より低い水温の中、目前に迫る壁に手を伸ばした。 「ふー」 水中に沈められた風船が浮き上がるように顔を上げる。 ピッーー 結果を告げる笛の音が館内に響く。 俺は周りを見回したが、まだ俺しか着いていないらしい。 つまり優勝したわけだ。 …ここは市が運営する民間プールである。 夏だというのに灰色で覆われた空が広がっている。 そんな中でも夏を代表する虫の鳴き声は館内まで響いてくる。 今日は市内中等部水泳大会。 もともとは屋外で行われるはずだったこの小規模な大会は、突然の雨により急きょ館内プールで開かれた。 俺は中止になることを志望していたが、早いうちに済ませたかった。 つまり、どちらでもよかったのだ。
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