5人が本棚に入れています
本棚に追加
もう少し…。もう少しで手が届く。
身体にまとわり付く体温より低い水温の中、目前に迫る壁に手を伸ばした。
「ふー」
水中に沈められた風船が浮き上がるように顔を上げる。
ピッーー
結果を告げる笛の音が館内に響く。
俺は周りを見回したが、まだ俺しか着いていないらしい。
つまり優勝したわけだ。
…ここは市が運営する民間プールである。
夏だというのに灰色で覆われた空が広がっている。
そんな中でも夏を代表する虫の鳴き声は館内まで響いてくる。
今日は市内中等部水泳大会。
もともとは屋外で行われるはずだったこの小規模な大会は、突然の雨により急きょ館内プールで開かれた。
俺は中止になることを志望していたが、早いうちに済ませたかった。
つまり、どちらでもよかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!