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「お~い、田嶋(たしま)、置いてくなよう」
背後から軽快な足音と共に俺を呼ぶ声がした。
田嶋とは俺の名字である。
俺を名字で呼ぶヤツは、教師かこいつくらいである。
自宅という目的地設定された足を止め、振り返る。
「橘(たちばな)か」
恵比寿のような満面の笑みで近づいてくるこいつは、俺と登下校をともにする同級生、いわゆる親友である。
親父に水泳を勧められた俺は、始めは面倒くさいと断っていたが、俺も一緒にやるからと、橘は俺と水泳をやると言ってくれたのだ。
こうして俺が水泳を続けていられるのもこいつのおかげかもしれない。
「また優勝したんだな、田嶋」
まるで自分のことのように喜んでいるこいつは、すらっとした身体をしており、どちらかと言えば顔立ちが整っている、つまりモテるタイプの人間である。
「まあな」
投げやりに答える俺の返事など聞かず、笑顔のまま歩き始めた。
「なぁー、はらへんねぇか?コンビニ行こうぜ。コ・ン・ビ・ニ」
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