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俺はあんな深刻そうな橘の顔を今まで見たことがなかった。
…その時、歴史は動き出したのだ。
橘はショーウインドの後ろに右手を伸ばした。
俺は疾風の如く、橘の行動を理解した。
あいつはあろうことかスパイシーチキンを万引きしようとしていたのだ。
休憩室にいたおばさんは、いつの間にかレジの前に立ち、橘の行為を凝視している。
片手にカラーボールを持って。
「おいっ!橘、やめろ!」
しかし、橘は既に未払いのスパイシーチキンをくわえていた。
「うっめ~!!」
橘はいつもの笑顔に戻っている。
金剛力士像のような顔のおばさんは、カラーボールを大きく振りかぶった。
「よけろっ!」
俺は無我夢中で走った。
ただスパイシーチキンをうまそうに食う親友のために。
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