1052人が本棚に入れています
本棚に追加
〈おーい〉
「誰!?」
その日は誰かに声をかけられた。
誰かは覚えていない。
俺は、こんな山の中でのどこからともなくした声を疑うべきだった。
〈いつも楽しそうなことしてるねぇ。〉
「楽しそうなこと…増え鬼?鬼が増える鬼ごっこのこと?」
恐怖などまったく感じず、森の中で声の主に平然と話しかける俺。
〈…そっか、増え鬼って言うのか。〉
その声は笑っていた。
〈…なぁ、お前がもうすこし大きくなったら…そうだな、十年後の今日。私もいれてくれないか?〉
この約束を断るべきだった。
「…いいよ!!けどその時はアンタが鬼だよ!?」
だが子供らしい素直で軽率な判断をし、森の中で誰かと約束を交わした。
〈フフ…鬼か、わかった。忘れるなよ少年。じゃあ十年後に。〉
それっきり声はしなかった。
当時の俺はひとときの夢を見ていた感覚で、その後は何事もなかったように家に戻った。
それから十年といった月日が流れ、約束を忘れかけた頃。
その日はやってきた。
最初のコメントを投稿しよう!