1.変化

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甘い桜の香に包まれながら、私は家へ帰った。 「ただいまっと…」 暗く冷たく広がる部屋に向かって、誰に向けるでもなくつぶやいた。 これは無意味な癖。 昔、愛する人と暮らしていた頃の抜けきれない癖。 つぶやいた瞬間に、なんともいえない虚しさがただようってわかっているのに、なんとなく毎日繰り返してしまう。     靴を脱ぎながら小さくため息をつき、暗い闇のなかに入っていった。 「寒っ」 桜が咲き始めたとはいえ、まだまだこの時間は冷える。 部屋着に着替えた私は、エアコンのリモコンを握りながらパソコンを立ち上げた。 パソコンが立ち上がるまでのあいだに、メイクを落としてしまう。 これもいつもの習慣。 メイクオフシートがいろんな色に染まりきる頃、ちょうどパソコンが立ち上がる。 慣れた手つきで、最近ハマっているSNSサイトを開く。 このサイトを利用するようになって、何人かの友達ができた。 ケータイでもアップできるサイトなので、こどもから大人までかなりの人数が参加していて、友達の年齢層も幅広い。 テレビなどでCMをしている、結構人気のサイトだ。     「最近、書き込み少なくなってきたなぁ…」 1年ほどこのサイトを利用しているが、最近少しマンネリ気味なのだ。何か刺激がほしい…。 そんなことを考えながら、コミュニティにみんなが掲載している写メを眺めていた。 「こんなとこに載せて、何か効果があるのかしら?」 誰に言うでもなく、ポツリとつぶやいたことば。 深い意味はなかったのだが、なんとなく携帯を開いて最近友達と撮ったプリクラを表示した。 「試しにのせてみようかなぁ…でも加工しなきゃだよねぇ…」 画像の明るさを変えたり、口元を隠したり… そうやって加工するのは案外楽しかった。 自分が自分でなくなっていく感覚… それは生まれて初めて味わう感覚だった。 そうして出来上がった写真を、私は「友達募集」のトピックに掲載した。 これで何か反応があってもなくても、正直どうでもよかった。 ただ何か、いつもとは違う刺激が欲しかっただけなのだから…。 ただこの行動が、私のそれからを大きく変化させることになるのだった。
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