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甘い桜の香に包まれながら、私は家へ帰った。
「ただいまっと…」
暗く冷たく広がる部屋に向かって、誰に向けるでもなくつぶやいた。
これは無意味な癖。
昔、愛する人と暮らしていた頃の抜けきれない癖。
つぶやいた瞬間に、なんともいえない虚しさがただようってわかっているのに、なんとなく毎日繰り返してしまう。
靴を脱ぎながら小さくため息をつき、暗い闇のなかに入っていった。
「寒っ」
桜が咲き始めたとはいえ、まだまだこの時間は冷える。
部屋着に着替えた私は、エアコンのリモコンを握りながらパソコンを立ち上げた。
パソコンが立ち上がるまでのあいだに、メイクを落としてしまう。
これもいつもの習慣。
メイクオフシートがいろんな色に染まりきる頃、ちょうどパソコンが立ち上がる。
慣れた手つきで、最近ハマっているSNSサイトを開く。
このサイトを利用するようになって、何人かの友達ができた。
ケータイでもアップできるサイトなので、こどもから大人までかなりの人数が参加していて、友達の年齢層も幅広い。
テレビなどでCMをしている、結構人気のサイトだ。
「最近、書き込み少なくなってきたなぁ…」
1年ほどこのサイトを利用しているが、最近少しマンネリ気味なのだ。何か刺激がほしい…。
そんなことを考えながら、コミュニティにみんなが掲載している写メを眺めていた。
「こんなとこに載せて、何か効果があるのかしら?」
誰に言うでもなく、ポツリとつぶやいたことば。
深い意味はなかったのだが、なんとなく携帯を開いて最近友達と撮ったプリクラを表示した。
「試しにのせてみようかなぁ…でも加工しなきゃだよねぇ…」
画像の明るさを変えたり、口元を隠したり…
そうやって加工するのは案外楽しかった。
自分が自分でなくなっていく感覚…
それは生まれて初めて味わう感覚だった。
そうして出来上がった写真を、私は「友達募集」のトピックに掲載した。
これで何か反応があってもなくても、正直どうでもよかった。
ただ何か、いつもとは違う刺激が欲しかっただけなのだから…。
ただこの行動が、私のそれからを大きく変化させることになるのだった。
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