見慣れない箱

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「おはよう」 三島恭子は、大学のキャンパスで、知った後姿を、見つけると声を掛けた。 ショートカットの恭子とは違い、肩まで伸びた長い黒髪。 中澤清美は、恭子の声に気付くと振り返った。 「おはよう」 恭子の細い目と違って、丸い目と、長いまつ毛が印象的だ。 「旅行楽しかったね」 恭子は笑いながら言った。 「うん。でも、少し疲れちゃった」 二泊三日で旅行に行ってきた。 バリ島。 清美が行きたいと、言っていた島だ。 正直、恭子は、ハワイに行きたかった。 だが、清美は、絶対にバリ島がいいと、断固として譲らなかった。 普段大人しい清美が、珍しくムキになっている姿を見て、恭子は、泣く泣くハワイ行きを諦めたのだ。 後悔はしていない。 普段見れないバリ島の伝統的な踊りも見れたし、料理も満足だった。 「私もなんだか疲れて体だるいかな。荷物の整理もしてないし、お土産も渡してない。清美はお土産渡した?」 恭子は、顔を少し傾けると言った。
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